C型慢性肝炎
C型慢性肝炎とは
C型慢性肝炎とは、C型肝炎ウイルスの感染によって肝臓に炎症が6ヶ月以上持続している状態を指します。
C型肝炎ウイルスはRNAウイルスで、1989年に発見され、それまで原因不明とされていた肝炎の多くがC型肝炎ウイルスによるものと判明しました。
世界ではおよそ5,800万~7,100万人がC型肝炎ウイルスに慢性的に感染していると推定されており、日本国内でも約90万~130万人の感染者がいるとされています。
急性のC型肝炎に感染した場合、約70~75%の人が慢性肝炎へ移行するとされます。
慢性感染者のうち相当数が数十年の経過で肝硬変や肝臓がんを発症するリスクがあり、特に肝硬変まで進行した場合は毎年数%の割合で肝臓がんを生じると報告されています。
現在、C型肝炎に対する予防ワクチンは存在しません。
しかし近年は抗ウイルス治療の進歩により、適切に治療を行えば95%以上の症例でウイルスを排除することが可能になってきています。
早期発見と治療によって、将来的な肝硬変・肝がんへの進行を抑えることができる疾患です。
C型慢性肝炎の症状
C型慢性肝炎は初期には自覚症状がほとんど現れないことが多いのが特徴です。
感染していても肝臓へのダメージが軽いうちは症状が出ないため、倦怠感や食欲低下、皮膚のかゆみなど軽微な症状しかないか、全く症状がないことも珍しくありません。
自覚症状がないまま健康診断の血液検査で肝機能異常を指摘されたり、C型肝炎ウイルス抗体陽性を指摘されて初めて感染に気付くケースもあります。
慢性的な炎症が続くと肝臓の線維化が進行し、組織が硬く変形して肝硬変の状態になります。
C型慢性肝炎が進行して肝硬変の段階になると、肝機能の低下による様々な症状が現れます。
具体的には、皮膚や白目が黄色く染まる黄疸、手足や顔のむくみ、腹部に腹水の貯留、鼻血や歯茎の出血が止まりにくくなる出血傾向などがあります。
さらに重症になると、肝臓で有害物質を解毒できなくなることで意識障害を起こす場合もあります。
一方、肝硬変の初期でも症状が出ないことがあり、またC型肝炎に関連する肝細胞がんも初期には自覚症状がほとんどありません。
そのため、症状の有無に関わらず定期的な検査・フォローが重要です。
C型慢性肝炎の原因
C型慢性肝炎の原因はC型肝炎ウイルスの持続感染です。
C型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染し、人から人へ血液を通じてウイルスが移ります。
感染経路として最も多いのは、ウイルスに汚染された血液が体内に入る経路です。
具体的には注射針の使い回しや、不適切に衛生管理された医療行為・注射手技による感染、ウイルス検査をしていない血液や血液製剤の輸血・投与による感染などが挙げられます。
日本では過去に輸血や血液製剤を受けたことが原因で感染した例が多く見られます。
近年は輸血用血液のスクリーニング検査が徹底されているため輸血による新規感染はほぼありませんが、代わって注射薬物乱用による感染が世界的に大きな問題となっています。
通常の性生活でのC型肝炎ウイルス感染率は高くありませんが、粘膜が傷つくような性的接触や、HIVなど他の性感染症を併発している場合には性行為による感染リスクも指摘されています。
また、C型肝炎ウイルスに感染している母親から胎児への母子感染が起こることもあり、リスクは5~10%程度と報告されていますが、衛生管理の行き届いた医療環境下ではその発生率はさらに低いと考えられています。
C型慢性肝炎の治療
C型慢性肝炎の治療の中心は抗ウイルス療法です。
現在はインターフェロンという注射薬を使わない経口薬のみの治療法が主流で、C型肝炎ウイルスに対して直接作用する抗ウイルス薬の複数併用療法が行われます。
これらの新しい抗ウイルス薬により、治療終了後12週の時点でウイルスが検出されなくなる治癒率はおよそ96~100%と非常に高く、多くの患者様で完治が期待できます。
代表的な経口薬にはソホスブビル、レジパスビル、ベルパタスビル、グレカプレビル、ピブレンタスビルなどがあり、2種類以上を組み合わせて8~12週間程度内服する治療法が一般的です。
これらの直接型抗ウイルス薬はウイルス自体を標的にするため非常に効果が高く、副作用も従来の治療法に比べて軽微です。
かつて主流であったインターフェロンとリバビリン併用療法に比べると、服薬による身体的負担も少なく高齢者でも治療しやすくなっています。
抗ウイルス療法によりC型肝炎ウイルスを排除できれば、肝臓の炎症が鎮まり線維化の進行を抑えることができます。
その結果、将来的な肝硬変や肝がんへの進行リスクも大幅に低減します。
実際、抗ウイルス薬によってC型肝炎患者の95%以上でウイルスの完治が可能であり、治療により肝がんや肝硬変による死亡リスクを下げられることが報告されています。
治療終了後は血液中のウイルス量を再度検査し、終了後12週の時点でウイルスが検出されなければ治癒と判断されます。
なお、治療効果を高める目的で一部の難治例では経口薬にリバビリンを追加する場合がありますが、リバビリンには胎児奇形の副作用があるため、服用中および終了後6ヶ月間は男女とも確実な避妊が必要です。
既に肝硬変が進行して肝不全に陥りそうな場合や、肝がんを合併している場合には肝移植が検討されることもあります。
肝移植後もC型肝炎ウイルスが再燃しないよう、引き続き抗ウイルス薬による治療を行いウイルス排除を目指します。
いずれにせよ、現在の抗ウイルス療法は年齢や肝機能に関わらず可能な限り全てのC型肝炎患者で行うことが推奨されています。
末期がんなど余命が極端に短い場合を除きます。
早期に治療を受けることで、将来の肝障害進行を防ぎ健康寿命を延ばすことが期待できます。
早期発見のポイント
C型肝炎は症状が出にくいため、ハイリスク者のスクリーニング検査や早期発見が重要です。
自覚症状がなくても長年かけて肝臓にダメージが蓄積し、ある時点で初めて症状が出現した時には既に肝硬変に至っていることもあります。
そのため、リスク因子のある方は積極的に検査を受けることが推奨されます。
米国CDCなど海外のガイドラインでは、リスクの有無に関わらず18歳以上の全ての成人が一生に一度はC型肝炎の検査を受けることが推奨されています。
日本においても、過去に輸血歴がある世代の方や肝機能異常を指摘された方を中心に、検診等でのウイルス検査が呼びかけられています。
以下のようなリスク要因を持つ方は特に検査を受けることが望ましいでしょう。
- 注射薬物乱用歴がある(現在使用中または過去に1回でも使用経験がある場合)
- 輸血や臓器移植を1990年代前半以前に受けた(C型肝炎ウイルス検査導入前の輸血により感染した可能性があります)
- 血液透析を長期間受けている、または過去に受けていた
- 医療従事者・介護者で、業務中に誤ってC型肝炎ウイルス感染者の血液に触れるような針刺し事故を起こした経験がある
- HIV感染者、またはHIV予防目的で抗レトロウイルス薬を内服中である
- 刑務所収容歴がある(過去に服役したことがある)
- C型肝炎の母親から生まれた(母子感染の可能性がある)
その他、不特定多数との性的接触がある人や、入れ墨・ピアス等で非衛生的な器具を使用された経験がある人も検査を検討してください。
検査は血液検査で行います。
まずC型肝炎ウイルスに対する抗体検査を行い、陽性であった場合には現在ウイルスに感染しているかどうかを調べる確認検査を行います。
具体的には、C型肝炎ウイルス抗体陽性の場合、採血によるHCV-RNA検査やC型肝炎ウイルスコア抗原検査を行い、体内にウイルスが存在するかを確認します。
これによって過去の感染なのか、現在もウイルスが残っている持続感染なのかを判別できます。
加えて、現在感染している場合はウイルスの遺伝子型を調べる検査も行われます。
C型肝炎ウイルスは遺伝子型によって治療薬の選択や治療期間が多少変わるためです。
以上の検査によりC型慢性肝炎と診断された場合、早期に専門医療機関で治療方針を相談するとよいでしょう。
早期発見・治療によって、将来の重篤な肝障害を防ぐことができます。
予防の基礎知識
C型肝炎に対するワクチンは現在存在しないため、感染を防ぐためにはウイルスに曝露しないことが最も重要な対策になります。
具体的な予防策としては、以下のような点に注意してください。
- 注射器や針の使い回しを避ける
薬物注射のみならず、医療機関や家庭内でも他人と注射針を共有しないよう徹底します。
医療行為で使用する注射器具や鍼治療の鍼などは必ず滅菌済みのものを用いるようにします。 - 適切に検査された血液や製剤の使用
献血された血液はC型肝炎ウイルス検査でスクリーニングされていますが、渡航先など医療水準の異なる地域では注意が必要です。
信頼できる医療機関で安全が確認された血液・血液製剤のみ輸血を受けるようにします。 - 日常生活での血液を介した接触予防
家庭内でC型肝炎ウイルス感染者がいる場合、カミソリや歯ブラシなど微量でも血液が付着する可能性のある日用品は共有しないようにします。
怪我をした際には傷口をしっかりと覆い、血液が他者に触れないようにしましょう。 - 安全な性行為の励行
性的接触でのC型肝炎ウイルス感染率は高くないものの、コンドームを使用するなど安全策を取ることでリスクをさらに減らせます。
特に他の性感染症に感染している場合や、不特定の相手との性交渉がある場合には注意が必要です。 - 医療・衛生環境での対策
医療従事者は標準予防策を遵守し、針刺し事故の防止に努めます。刺青やピアス等は信頼できる衛生管理の行き届いた施設で受けましょう。
万一血液曝露の可能性がある事故が起きた場合は、早めに医療機関で相談し検査を受けてください。