前立腺がん
前立腺がんとは
前立腺がんは、男性だけが持つ臓器である前立腺に発生する悪性腫瘍です。
前立腺は膀胱の出口で尿道を取り囲むように存在し、栗の実ほどの大きさで精液の一部を作り出すなどの働きをしています。
前立腺がんは特に中高年の男性に多くみられ、欧米では男性のがんで最も患者数が多い病気です。
日本でも食生活の欧米化や高齢化の影響で患者さんが年々増加しており、2015年以降は男性のがんで最も罹患数が多い部位となっています。
幸い、前立腺がんは比較的進行が緩やかな場合が多く、早期に発見して適切に治療すれば予後は良好です。
実際、前立腺がん患者全体の5年生存率は約99%と非常に高く、多くの患者さんががんと共存しながら長期生存できる可能性があります。
前立腺がんの症状
前立腺がんの初期にはほとんど自覚症状がありません。
病気が進行して前立腺が大きくなるにつれて、徐々に尿の出が悪くなる、尿の切れが悪い、頻繁にトイレに行く、急に強い尿意を感じるといった排尿に関する症状が現れることがあります。
前立腺付近でがんが広がると血尿が出たり排尿困難になることもあり、さらに進行して腫瘍が骨に転移すると腰痛などの痛みが生じる場合があります。
ただし、これらの症状は前立腺肥大症など良性の病気でも起こりえるため、症状だけで前立腺がんと判断することはできません。
前立腺がんの原因
前立腺がんの明確な原因はまだ解明されていません。
しかし、いくつかの危険因子が知られており、その代表が加齢と家族歴です。
年齢が高くなるほど発症リスクは上昇し、特に50代後半から増え始めて70代で高くなります。
また、父や兄弟など近親者に前立腺がんになった方がいる場合、そうでない人より発症リスクが高くなることがわかっています。
そのほか、食生活や生活習慣との関連も指摘されています。
近年日本で前立腺がんが増加している背景には、欧米型の高脂肪・高たんぱくの食事の普及や平均寿命の延びによる高齢化が大きく影響していると考えられています。
肥満やカルシウムの過剰摂取、喫煙などもリスクとの関連が研究されていますが、現時点では明確な結論は出ていません。
前立腺がんの治療
前立腺がんの治療方針は、がんの進行度や悪性度、患者さんの年齢・健康状態によって決定されます。
根治を目指す治療法としては手術による前立腺の摘出と放射線治療の2つが柱になります。
手術は下腹部の切開や腹腔鏡を用いて前立腺を取り除く方法で、放射線治療には体の外から前立腺に放射線を照射する方法や、前立腺内に小さな放射線源を留置する方法があります。
これらはいずれも早期がんに対して高い治癒率が期待できる標準治療ですが、それぞれ手術後の尿失禁や勃起機能障害、放射線照射後の直腸や膀胱への影響などの副作用があり得るため、メリットとデメリットを理解した上で選択することが大切です。
進行がんや転移が見られる場合には、がん細胞の増殖に男性ホルモンが関与している性質を利用した「ホルモン療法」が行われます。
男性ホルモンの働きを薬で抑えることで多くの前立腺がんは縮小・抑制できますが、時間経過とともに効果が弱まる場合もあります。
ホルモン療法が効かなくなった進行がんに対しては、抗がん剤による治療も検討されます。
抗がん剤治療では主にドセタキセルといった薬剤を用いますが、副作用として吐き気、汎血球減少による感染症リスクの上昇などがみられることがあります。
一方で、がんがごく初期で悪性度が低い場合や、高齢で持病のある方などには、すぐに積極的な治療を行わずに経過を観察する選択肢もあります。
これは「経過監視」と呼ばれ、定期的にPSA検査(前立腺特異抗原の測定)や前立腺の組織検査を行い、がんの進行兆候がないか慎重に見守る方法です。
経過観察中に進行のサインがみられた場合には、改めて手術や放射線治療、ホルモン療法などに切り替えて治療を行います。
早期発見のポイント
前立腺がんは早期には症状が出にくいため、症状がない段階で発見するには検査によるスクリーニングが重要になります。
代表的な検査として、血液検査によるPSA検査(前立腺特異抗原の測定)があり、採血するだけで前立腺がんの有無の手がかりを得られる優れた腫瘍マーカーです。
PSA値が高い場合には前立腺がんの可能性があるため、更に精密検査として直腸診や画像検査、前立腺の針生検を行って診断を確定します。
早期発見のためには定期的にこれらの検査を受けることが有効ですが、現在の日本では前立腺がんに対する全国的ながん検診はありません。
自治体によっては検診の一環でPSA検査を実施している場合もあるため、気になる方は市区町村の案内やかかりつけ医に相談するとよいでしょう。
排尿症状など気になる症状がある場合には我慢せず早めに泌尿器科を受診しましょう。
予防の基礎知識
前立腺がんを確実に予防する方法は残念ながら確立されていません。
しかし、がん全般の予防策として有効とされているのは、禁煙、適度な飲酒にとどめること、バランスの良い食事、適度な運動、適正体重の維持、そして感染症予防といった健康的な生活習慣を徹底することです。
前立腺がん特有の予防法はありませんが、リスク要因の一つと考えられる高脂肪食の摂りすぎを控え、野菜や果物を取り入れたバランスの良い食事を心がけることは有益でしょう。
また、定期的な健康診断で前立腺の状態をチェックし、異常の早期発見に努めることも広い意味で予防につながります。