胆石症
胆石症とは
胆石症とは、肝臓から腸へ胆汁が流れる通り道である胆のうや胆管に「胆石」ができる病気です。
胆石は胆のう内で胆汁の成分が固まってできた石で、主成分はコレステロールであることが多いものです。
胆のうは肝臓の下にある小さな袋状の臓器で、肝臓で作られた胆汁を蓄える役割があります。
食事をすると胆のうが収縮して胆汁を胆管経由で十二指腸に送り出し、脂肪の消化を助けます。
この胆汁の通り道のどこかに胆石ができると胆石症となります。
胆石には種類があり、成分により大きく2つに分類されます。
1つはコレステロール結石で、過剰になると結晶化し、石として形成されます。
もう1つは色素結石で、胆汁中のビリルビンが固まってできるものです。
色素結石には黒色と褐色のものがあり、例えば溶血性貧血などでビリルビンが増えると黒色結石ができやすく、胆道に細菌感染や炎症があると褐色結石が生じることがあります。
一般的にはコレステロール結石が多数を占めますが、日本では食生活の欧米化や高齢化に伴い胆石症自体が増えており、さまざまなタイプの胆石がみられます。
胆石はそのできる場所によっても呼び名が異なり、胆のうにできたものを胆のう結石、胆管にできたものを胆管結石(肝内胆管か総胆管かでさらに分類)と呼びます。
胆石症で一般に言われる胆石の約80%は胆のう結石です。
胆石症の症状
胆石症の主な症状は、腹部の右上、またはみぞおち辺りに生じる強い痛みです。
これらの痛みは、特に食後しばらくしてから現れることが多く、脂肪分の多い食事を摂った後に起こりやすい傾向があります。
痛みは差し込むように激しく、右肩や背中に放散することもあります。
その他の症状には、吐き気や嘔吐、消化不良、発熱を伴うこともあります。
通常、痛みの発作は数十分から数時間ほど持続し、徐々に治まります。
しかし胆石が胆管に詰まって胆汁の流れを塞いでしまうと、痛みが長引くだけでなく胆のうが腫れて炎症を起こし、発熱を伴う場合があります。
さらに胆管の出口付近で詰まった場合には、白目や皮膚が黄色くなる黄疸が現れることもあります。
高熱や黄疸を伴う場合は胆嚢炎や胆管炎といった重い合併症の疑いがあり、早急な治療が必要です。
なお、胆石症の患者さんすべてに症状が出るわけではありません。
無症状の胆石も多く、実際には胆石があっても約80%の人は長年にわたり症状を自覚しないという報告もあります。
症状のない胆石は健康診断の超音波検査などで偶然見つかるケースもあり、このような場合は「無症候性胆石」と呼ばれます。
胆石症の原因
胆石ができる原因は、一言で言えば胆汁の中の成分バランスの乱れです。
胆汁中のコレステロールやビリルビンなどが過剰になったり、胆のうの中で長時間胆汁が滞留したりすることで、これらが結晶化・固形化して胆石が形成されます。
コレステロールは本来胆汁酸によって胆汁中に溶けていますが、肝臓からのコレステロール分泌が多すぎると胆汁中で溶けきれず結晶が析出してしまいます。
ビリルビンについても、肝臓病や溶血などで胆汁中に増えたり、胆汁のうっ滞や胆道感染で細菌が混入したりすると固まりやすくなります。
また、胆汁の通り道である胆管が狭くなる病気や、胆のうの収縮機能低下なども石の形成を助長します。
一方、胆石症の危険因子として知られるものには、生活習慣や体質に関わる様々な要因があります。
例えば、肥満や高カロリー・高脂肪の食生活は胆汁中のコレステロール過剰につながり胆石のリスクを高めます。
逆に急激なダイエットや断食も胆のうに胆汁が長くとどまるため胆石ができやすくなります。
女性は男性より胆石ができやすく、特に妊娠や経口避妊薬の長期使用による女性ホルモンの影響がリスクとなります。
実際、胆石症は中年以降の女性に多い傾向が指摘されています。
糖尿病や脂質異常症などの代謝疾患を持つ方も胆石ができやすい傾向があります。
そのほか、高齢になるほど発症率が高くなり、胆石の家族歴もリスク要因の一つです。
これらの危険因子を多く持つ人ほど胆石症になりやすいため、日頃から生活習慣に留意することが大切です。
胆石症の治療
胆石症の治療方針は、症状の有無や石の状態によって異なります。
まず、症状のない無症候性胆石の場合、ただちに治療を行う必要はないことが多いです。
胆のうに癌の合併がないことを確認したうえで経過観察とし、定期的に検査しながら様子を見ることも可能です。
一方、激しい痛みなど症状が出ている胆石症では、基本的になんらかの治療が推奨されます。主な治療法には以下のようなものがあります。
- 薬物療法(胆石溶解療法)
薬で胆石を溶かす方法です。ウルソデオキシコール酸製剤など胆汁酸の薬を服用し、胆石を徐々に小さくします。
コレステロール結石で石が小さい場合に効果が期待できますが、溶解には半年~1年以上と長期間を要し、石の種類や大きさによっては溶かせないこともあります。
また、薬で一度溶かしても再発しやすく、根本的な解決にならないため、現在では手術のリスクが高い場合など限定的な適応となっています。 - 体外衝撃波破砕術(ESWL)
体の外から衝撃波を当てて胆石を砕く治療法です。
お腹を切らずに済み低侵襲ですが、一度に完全に砕けない場合も多く、複数回の処置が必要になることもあります。
砕いた胆石の破片が体外に排出されないこともあり、適応できるのは胆石の数や大きさが限られた特定のケースに限られます。
薬物療法と同様、この方法が有効なのは一部の胆石のみであるため、現在では症状のある胆のう結石に対して第一選択とされることは少なく、症例を選んで行われます。 - 内視鏡治療(内視鏡的結石除去)
主に胆管に結石がある場合に行われる治療法です。
内視鏡的逆行性胆道膵管造影という内視鏡検査の手技を応用し、十二指腸乳頭部を切開して胆管内の結石を取り出します。
小さなかごを使って石を引き抜くことができ、多くの場合は開腹手術をせずに胆管結石を取り除くことができます。
石を取り出した後、再発予防のため胆管の開口部を広げておく処置を行うこともあります。
内視鏡治療は高度な技術を要しますが、成功率は高く(約90%)、開腹手術に比べて患者さんの負担が小さい安全な治療法です。 - 手術(胆のう摘出術)
症状のある胆のう結石に対して最も根本的で確実な治療となるのが手術による胆のう摘出です。
胆のうそのものを取り除くことで再発の心配がなくなり、胆石による痛みや炎症を根治できます。
胆のうを失っても肝臓からの胆汁は胆管を通じて腸に流れるため消化機能への影響はほとんどありません。
現在では腹腔鏡下胆のう摘出術といって、お腹に数か所の小さな穴を開けて内視鏡カメラと器具を挿入し胆のうを取り出す手術が主流です。
開腹手術に比べて体への侵襲が少なく、術後の痛みも軽く抑えられ、入院期間も短くて済む利点があります。
合併症や重度の胆嚢炎がある場合などは開腹手術が選択されることもありますが、多くのケースでは腹腔鏡手術で安全に胆のう摘出が行われています。
早期発見のポイント
胆石症は症状が出ないことも多いため、早期発見には検診などでのチェックが有効です。
腹部超音波検査は痛みのない検査で胆石の有無を調べるのに非常に有用です。
超音波検査では胆石をほぼ確実に発見できるため、腹痛の有無に関わらず健康診断で腹部エコーの機会があれば受けておくと良いでしょう。
特に胆石症の危険因子を持つ方や、中高年の女性の方は意識的に検査を受けることをおすすめします。
また、日頃から次のような胆石症のサインに注意しましょう。
以下のような症状がみられた場合は、早めに医療機関を受診して検査を受けることが大切です。
- 右上腹部の鋭い痛みが繰り返し起こる(食後に発生しやすい)
- 背中や右肩にかけての痛みがある
- 発熱や悪寒を伴う腹痛がある
- 黄疸がみられる
これらは胆石による典型的な症状で、放置すると悪化して重症化する恐れがあります。
早期に見つけて対処することで、胆石症による合併症(胆嚢炎・胆管炎や膵炎など)を防ぐことができます。
予防の基礎知識
胆石症を予防するためには生活習慣の改善が重要です。
胆石の形成は生活習慣と密接に関連しているため、日頃からバランスの良い食事と適度な運動を心がけ、胆汁の流れを滞らせないようにすることがポイントです。
具体的には次のような対策が有効です。
- 食事の改善
野菜や果物など食物繊維が豊富な食品を積極的に摂り、コレステロールや脂肪分の多い食事は控えめにします。
特に動物性脂肪やコレステロールの過剰摂取は胆石のリスクを高めるため注意しましょう。
逆に食物繊維は余分なコレステロールの吸収を抑え、果物に含まれるビタミンCや魚介類のタウリンは胆石予防に役立つとされています。
適度な脂質摂取も推奨されます。 - 規則正しい食習慣
1日3食を決まった時間にとり、欠食をしないようにします。
長時間空腹の状態が続くと胆汁が胆のうに長く滞留し、胆石ができやすくなります。
特に朝食を抜くなど不規則な食事は胆汁の排出リズムを乱します。
毎日できるだけ規則正しく食事をとり、胆のうを適度に収縮させて胆汁の入れ替わりを促すことが予防につながります。
過度な短期ダイエットや断食も胆石のリスクを高めるため避けましょう。
体重を減らす必要がある場合も、極端ではない適正な食事管理で徐々に行うことが大切です。 - 適度な運動と体重管理
日常的に適度な有酸素運動や体操を行い、エネルギー消費を増やすことで肥満を予防します。
肥満は胆石形成の大きな危険因子です。
また運動は腸の動きを促進し便秘を予防する効果もあり、結果的に胆汁酸の排泄を促して胆石を防ぐ助けになります。
無理のない範囲で継続的に身体を動かす習慣をつけましょう。 - ストレス管理と生活リズムの安定
忙し過ぎてストレスの多い生活は胆石症のリスク因子の一つとされています。
過労や睡眠不足が続くと食生活も乱れがちです。十分な休養と睡眠をとり、リラックスする時間を確保しましょう。
ストレスを溜め込まないよう適度に発散し、規則正しい生活リズムを維持することも胆石の予防に役立ちます。
このように、日常生活を見直すことで胆石症のリスクを下げることができます。
特に食事内容の改善と適正体重の維持は効果的です。
すでに胆石を指摘されている方も、これらの対策を続けることで胆石発作の予防につながります。
定期的な検診と健康的な生活習慣で、胆石症を予防・早期発見し、安心して過ごせるよう心がけましょう。