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知らないうちに食べている!トランス脂肪酸

「食べるプラスチック」という言葉を聞いたことがありますか?

必ずしもこの表現が適切とは言えませんが、トランス脂肪酸のことをこのように表現する人がいます。

というのも、トランス脂肪酸を含む食べ物を摂取することによって、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が増加し、心疾患のリスクが高まることが明らかになっています。

しかし、2012年に日本の食品安全委員会は「日本人の多くは、健康への影響を評価できるほどトランス脂肪酸を摂取していないため、通常の食生活では健康への影響は少ない」と述べたことにより、健康被害を懸念する声は少なくなりました。

ところが近年ふたたびトランス脂肪酸に関する健康への影響が不安視される風潮が高まってきました。

本稿では、トランス脂肪酸について、管理栄養士が徹底解説します!

〈1〉トランス脂肪酸とは

トランス脂肪酸といえば、マーガリンやショートニングなど加工食品に含まれているイメージが強いかもしれませんが、天然に含まれているものもあります。

天然のトランス脂肪酸は、牛や羊などの反すう動物の胃の中の微生物の働きによって作られます。そのため、牛肉・羊肉、牛乳やバターなど乳製品に含まれています。

加工食品のトランス脂肪酸は、常温の油脂を、常温で固形にするために水素を添加して作られるものがあり、この工程でトランス脂肪酸が生成されることがあります。

(消費者庁HPより)

例えば、常温で液体の植物油にこの加工をすることで、固形のマーガリンやファットスプレッドが作られます。

そしてこれらマーガリンなどを原材料に使ったパンやお菓子類にトランス脂肪酸が含まれてしまうということになります。

  • 身体に悪いって本当?

トランス脂肪酸による健康被害の研究の多くは、脂質の多い食生活を送る欧米人を対象としたものであり、脂質摂取量の少ない日本人の場合にも当てはまるかどうかは明らかにされていません。

ただし日本人であっても、揚げ物やラーメン、パンやケーキなど脂質の高い食べ物をよく食べる人は要注意です。

  • トランス脂肪酸をどれくらいまでなら摂っていいの?

内閣府の食品安全委員会が発表した調査では、日本人が食品から摂っているトランス脂肪酸の1日あたりの平均量は0.7グラムであると推定しました。これは1日の総摂取エネルギー量の0.3%に相当します。

1日のトランス脂肪酸摂取量を海外と比べてみると、

   アメリカ:5.8グラム(総摂取エネルギーの2.6%)

   EU諸国:1.2~6.7グラム(総摂取エネルギーの0.5~1.9%)

   オーストラリア:1.4グラム(総摂取エネルギーの0.6%)

諸外国と比べてみても日本人のトランス脂肪酸摂取量は少ないことが分かりますね。

2003年に、世界保健機関(WHO)は及び国際連合食糧農業機関(FAO)は心疾患予防のため、1日あたりのトランス脂肪酸の摂取量を、総摂取エネルギーの1%未満にするよう勧告しました。

日本人の総摂取エネルギーから考えると、トランス脂肪酸の許容範囲は約2グラムとなります。

  • 食べ物にはどれくらいのトランス脂肪酸が入っているの?

こちらは食品安全委員会が2007年に発表した調査結果です。

様々な商品をサンプルとしている為、トランス脂肪酸の含有量には大きな差があることがわかりますね。

(食品安全委員会HPより)

ちなみに、こちらのグラム量は食品100グラムあたりになります。

1食分の目安として、マーガリンは10グラム、マヨネーズは12グラム程度です。

〈2〉国内での対応

  • トランス脂肪酸の情報開示

日本では一定要件を満たす食品には一般表示事項として「エネルギー」「タンパク質」「脂質」「炭水化物」「食塩相当量」をパッケージに表示することが義務付けられています。

そして、2011年に消費者庁はトランス脂肪酸の情報開示に関する指針を発表しました。

その内容は以下のようなものです。

 ①一般表示事項に定められた栄養成分の次に、「飽和脂肪酸」「トランス脂肪酸」「コレステロール」の順に表示する

 ②「含まない旨」「低減された旨」の強調表示ができる

これらの表示は義務ではなく、自主的に開示することの要請にとどまっており、引き続きトランス脂肪酸を含む脂質に関する情報開示が普及されていくことが期待されます。

  • 脂質そのものに対する認識の普及

ここまでで、日本人のトランス脂肪酸の摂取量は決して多くないことが分かりましたが、日本人の死因の第2位は「心疾患」です。(2020年厚生労働省)

冒頭に、トランス脂肪酸は心疾患の原因となると記しましたが、広義では、食生活そのものが心疾患の原因になりうるのです。

特に脂質のエネルギー比率は戦後の約2倍となっており、脂質そのものの摂りすぎが危惧されています。

また、文部科学省が1950年から発行している「日本食品標準成分表」は七訂となる2015年版から食品成分がより細分化され、アミノ酸、炭水化物と並んで脂肪酸の成分表が別冊で策定されました。

更に、皆さんが手にする食品のパッケージに記載される栄養成分表示に関しても、脂質や炭水化物についてより詳しく記載することが食品事業者に対し推奨されるようになりました。

                            

●今までの栄養成分表示
 ●詳細化された栄養成分表示

左の栄養成分表示はお馴染みですが、右の栄養成分表示も最近はよく目にするようになりました。脂質は飽和脂肪酸、n-3系脂肪酸、n-6系脂肪酸に分類されています。

飽和脂肪酸乳製品やお肉など動物性食品に多く含まれる。摂りすぎると血中総コレステロールが増加し、心筋梗塞など循環器疾患のリスクが増加する
n-3系脂肪酸アマニ油、エゴマ油に多く含まれる。中性脂肪や悪玉コレステロールを減らす効果が期待できる
n-6系脂肪酸ごま油に多く含まれる。コレステロールを下げる効果があるが、善玉と悪玉の両方を下げてしまうので摂り過ぎには注意。

なるべく飽和脂肪酸が多く、n-3脂肪酸が多い食品を選んでいきたいですね。

いかがだったでしょうか。

トランス脂肪酸だけに着目するのではなく、脂質全体の量や塩分を控えめにすることを優先的に注意すれば、トランス脂肪酸を摂りすぎることはないでしょう。

つまり、いろいろな食品をバランス良く食べるということがあなたの健康につながります。

〈3〉参考資料

・農林水産省HP:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_wakaru/index.html

・食品安全委員会HP:https://www.fsc.go.jp/osirase/trans_fat.html

・オレオサイエンス 第13巻 第6号(2013)p.259-266